思い出のメッセージ

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その人は60代後半の女性でした。
60年も生きていると楽しいことや、辛いことはたくさんあります。
その女性にとって、その辛い出来事の1つが、最愛の姉を亡くしたことでした。
今でも目を閉じれば姉の顔が浮かぶほど、とても仲の良い姉妹だったのです。

その女性には1つの宝物がありました。それは、携帯電話です。

お姉さんは、亡くなる直前に妹であるその女性に電話をしていたのですが、その女性が電話に出られなかったため、留守番電話につながったのでした。
結果としてその留守番電話に吹き込まれたメッセージが姉の最期の言葉となったのです。
大好きなお姉さんのメッセージ。
その女性は、疲れた時や落ち込んだ時はそのメッセージを聞いて元気を取り戻していました。

ところがある日、その女性を悲しい事態が襲います。
元気の源であるメッセージが録音されている携帯電話が壊れてしまったのです。
電源は付き、メッセージも再生できるのですが、電話として機能しないのです。

その女性は、さっそく携帯電話Kショップに向かいました。
お店は混雑しており、順番待ちの時間はずっと携帯電話を眺めて過ごしていました。

やがて、その女性の順番がやってきました。
対応してくれたのは笑顔溢れる男性スタッフ。
さっそく、携帯電話の故障の話を説明すると、男性スタッフは携帯電話の電源を触ったり、電池を外したりしたのちに丁寧に説明してくれました。

「やはり壊れているようです。でも、修理をすればまた使えますよ。」

女性は安心して胸をなでおろします。
しかしその後、男性より思いもよらない説明があるのでした。

「ただし、電話帳のデータ以外は消えてしまいますが、よろしいでしょうか?」

ソフトバンクの決まりで、携帯電話機を修理に出すと、電話帳のデータ以外は消えるルールとなっていました。
女性は慌てて答えます。

「えっと・・・できれば留守番電話のメッセージを残してほしいのですが・・・。」

男性スタッフは、様子を窺うように答えました。

「大変申し訳ございませんが、メッセージはバックアップができないため、修理を行うとメッセージも消えてしまうのですが・・・何か大事な用件が録音されているのでしょうか?」

その女性は、もともとは説明するつもりはありませんでしたが、男性スタッフがとても真剣な眼差しで見つめてくれていたので、留守番電話に残されたメッセ―ジが姉の最期の言葉であることを話しました。

男性スタッフは黙ってすべての話を聞いていましたが、話を聞くほど「申し訳なさ」が表情に表れてきました。
女性もその男性スタッフの表情を見て、メッセージを残すことは難しいと悟りました。

無理なものをお願いしても仕方がない・・・きっとこれも運命なんだ・・・
そう思った女性は、最後にもう一度メッセージを聞いて、修理をお願いすることにしました。

もう2度と聞けないお姉さんの最期の声。
涙が流れてくることも気にせずに、2度も3度も聞いてしまいましたが、男性スタッフは何も言わずに黙ってそれを見守ってくれました。

やがて女性にも覚悟ができて、携帯電話を男性スタッフに渡します。
ついに、お姉さんの最期の声とのお別れとなりました。

数日後、携帯電話ショップより携帯電話の修理が完了したと連絡がありました。
ソフトバンクショップで待っていたのは、前回と同じ男性スタッフと、修理が完了した携帯電話。
そして、男性スタッフから説明があります。

「お客様、修理受付時に残したいとご要望のあった留守番電話のメッセ―ジですが、ソフトバンクの機械ではやはり電話機にデータを残すことはできませんでした。
しかし、なんとかしたいと思い、別の方法でデータを取り出すことができました。
誠に勝手ながらこちらのCDにメッセージを保存しております。
このCDをお客様にお渡しいたしますので、もうお姉さまの声が消えてしまう心配はありません。」

そう話しながら、男性スタッフはCDを差し出すのでした。
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女性は目と耳を疑います。
もう無理だと思っていた、諦めていた姉の声がCDになって残っているというのです。
そのCDには手書きのメモが添えられていました。

「お姉さんの留守番電話の録音データです。思い出を大切にしてください!」

女性の目からは涙が一気にあふれ出しました。
もうその涙は悲し涙ではありません。

「またお姉さんの声が聞けることのうれし涙」そして
「自分のためになんとかしてあげようと努力してくれた男性スタッフへの感謝の涙」でした。
やがて女性は何度も何度もお礼を言いながら、まだ信じられない面持ちで、お店をそっと出て行かれるのでした。